東京地方裁判所 昭和29年(フ)184号 決定
債務者 東京証券金融株式会社
一、主 文
債務者東京証券金融株式会社を被産者とする。
二、理 由
債務者会社は、昭和二十四年六月二十七日東京都千代田区富士見町二丁目十六番地に本店を置き、東京証券株式会社という商号を以て、有価証券の売買、金銭の貸付及びそれ等の斡旋などを営業の目的として設立され、爾来本店所在地並びに商号を数次変更し、標記住所及び商号を以て現在に至つているものであるが、その間設立当初の資本額百万円を逐次増加し、昭和二十六年商法の一部を改正する法律施行後は、所謂授権資本の範囲を変更増加すること百九十三回に及び、その都度直ちに右増加分全部につき新株発行の手続を了し、現に資本の総額十五億円に及んでいる。
然し右累次の新株発行に当つては、これを引受ける者は、すべて事実上債務者会社の取締役に限られ、而も株金の払込は取締役個人の手持金を以て為されることなく、その都度債務者会社より右取締役に対して貸与される融通金を以てこれに充てられて来たから、右の累次の新株発行は、それ自体としては債務者会社にとつて実質上全く自己資金の増加をもたらすものとはならなかつた。
そこで債務者会社は、右新株発行手続を了するに引続いて、右取締役が有するに至つた株式を額面金額で他に売却することを同取締役個人より委託された形式を以て一般大衆に売立て、株式譲渡人たる取締役個人と株式譲受人との間に立つて譲渡の斡旋を為すこととした。斯くして株式譲受人より支払われる譲受代金は、譲渡斡旋者たる債務者会社より譲渡人たる取締役個人に交付されるべきものであるが、これを以て前記新株引受に際しての会社より該取締役に対する融通金の返還請求債権と対当額につき相殺勘定とする形式をとることによつて、はじめて会社は新株発行に相応する実質的な資金の拡充を得ることとした。
而して右株式譲受代金を一時に支払い得ない譲受人については、債務者会社において立替のうえ、取締役個人に対する支払を為すこととし(この場合も前同様に取締役に対する融通金の返還請求債権と相殺勘定にするから、会社は取締役個人に対し現実に金員の交付を為すことはない。)譲受人は右立替金を日払又は月払の方法を以て債務者会社に対し償還することを約し、この分割償還の履行があつて、はじめて会社は新株発行及びこれに引続いて行われた操作の結果として現実の資金を把握することとした。
而して叙上の構想によれば、会社の斡旋によつて株式譲渡の契約が成立して、譲受人の代金一時払又は会社の即時の立替払があつて直ちに株式は譲受人に移転するものとされた。
而も右譲渡契約によつて株式を取得した者は、会社に対し株主としての権利を行使し得るほかに、同契約に附帯する約款に基き、譲受代金一時払の者はその一ケ月後に、立替金分割償還の者は完済後に、会社より一定範囲の金融を受け得る等の資格が附与され(この構想が株主相互金融と称せられることはこの故にである。)、又株式を取得した者が右の如き金融を受けることを欲せず、その株式を一定期間保有する場合には、保有期間中会社はこの者に株式額面金額に対する相当高率の歩合金(株式募集歩合又は株主優待費の名称を以てする。)の支払を為すべく、更に譲受人が他に株式の譲渡を望む場合には、取得後一定期間経過後であれば何時でも会社は他に譲渡斡旋の労をとり、直ちに譲渡の斡旋ができない場合には、会社は同人に対し株式額面と同額の金員を即時支払う義務を負うこととした。会社は、この附帯の約款によつて、簡易に金融を得ようとする者又は利殖を計ろうとする者の歓心を買い、効果的に資金の吸収を企図したのである。
この様にして債務者会社が、その資金の調達を図る方法を講じたのは、貸金業等の取締に関する法律第七条第一項の違反を避ける意図のもとに為されたことは窺われるところであつて、会社が金銭の受入を為す相手たる者は不特定多数人ではなくて、あくまで会社の株主たる特定人であるとの形を整えようとしたものであることがわかる。
然しながら右の如く債務者会社の側において株式譲受人として取扱われた一般の契約申込者は前示の如き会社側の構想形式を知らず、契約締結に当り会社の斡旋によつて特定の取締役個人より会社の株式を買受けるとの意思は全くなく、会社側も亦契約締結に際し右構想を明確に示すことをせず、むしろ契約当事者間の意思の合致は左記の如きことにあつたと認められる。
即ち一般の契約申込者は、債務者会社との間に(特定の取締役個人を契約の相手方とする意思は全くない。)一時払の方法により又は日払積金、月払積金等の分割払の方法によつて金員を会社に預け入れ、この預け金元本(会社側の謂う株式取得金)については約定の預け入れ期間中(会社側の謂う株式保有期間中)約定の利率による利息(会社側の謂う株式募集歩合又は株主優待費)の支払を受け、且つ契約期間中一定の条件を以て会社より融資を受け得ることを以て、金員消費寄託契約を結んだものと認めることができる。(従つてこの寄託金を以て、新株発行に際して会社が取締役個人に対し株金払込のために融通した金員との関係において相殺勘定を為すことは、正当な業務の執行とは言い得ない。)
右契約の各成立後、会社から契約の相手方に交付された契約証書には、前叙会社側の構想を窺わせる様な約款の記載が存することは認められるが、このことを以てしては未だ、当事者間の意思の合致に関する右認定は動かされるものではない。又会社は、その保管に係る取締役個人名義の株券の一部につき、前叙構想に基き株式譲受人として取扱われる者への名義書換手続を了している事実も窺われるが、このこととても単に会社側の一方的な事後処置に過ぎず、右の認定に何等の影響をも与えないことである。
而して本件破産債権者米川栄次ほか百九十名を含む約七万名(累次の新株発行に当りこれを引受け現に株式を有する取締役及び取締役たりし者は、株金払込に要した融通金の返還債務を今尚会社に対して負担しておりこそすれ、ここに会社債権者として掲げる内に含まれないことは勿論である。)が、総計約二億八千余万円につき右認定の金員消費寄託契約に基く債権を債務者会社に対して現に有しており、債務者会社は右債務を含め総額約三億六千余万円の負債を持ち、現にこれが支払不能の財産状態にあることが認められる。
以上は一件記録に徴して認定したところであつて、本件破産申立は理由あるものであるから主文の如く決定する。
なお本件について破産法第百四十二条により定める事項は左の通りである。
一、破産管財人
東京都文京区小石川町一丁目一番地満洲会館内
弁護士 赤木暁
同都中央区銀座四丁目四番地栂尾ビル五階
弁護士 渡辺憲一郎
一、債権届出の期間 昭和二十九年十二月二十日まで
一、第一回の債権者集会の期日 同年十一月二十七日午前十時
一、債権調査の期日 昭和三十年一月十七日午前十時
昭和二十九年十月三十日午前十時宣告
(裁判官 安倍正三)